EV製造を支えるギガキャストとは?各自動車メーカーの動向も解説

電気自動車(EV)の市場拡大に伴って、ギガキャストという技術が注目を集めています。この技術はアメリカのテスラ社が先駆けて採用し、製造工程の効率化とコスト削減を実現しており、日本の自動車メーカーも相次いで導入を発表しました。

そこで本記事では、ギガキャストの概要やメリット、導入の課題、国内メーカーの動向などについて解説します。
 

ギガキャストとは?

ギガキャストとは、自動車製造における革新的な生産技術で、複数のアルミニウム部品を一体成形することで車体構造を大幅に簡素化する方法です。この技術は、従来の鋼板プレス加工や溶接工程に代わる新しいアプローチとして注目を集めています。

テスラが先駆けて採用したこの技術は、型締め力6000トン以上の巨大なダイカストマシンを使用して、車体の主要部分を一度に成形します。これにより、部品点数は劇的に減少し、製造工程の効率化とコスト削減が期待されています。

ギガキャスト技術の核心は、高速・高圧でアルミニウム合金を金型に流し込み、複雑な形状の大型部品を一体成形する点です。この方法により、従来の多段階製造プロセスを単一工程に集約し、生産効率を向上させることが可能となりました。

そして現在、日本の自動車メーカーも、この技術の導入に向けて動き出しています。
 

技術的特性

ギガキャスト技術の核心は、アルミニウム合金を使用して大型部品を一体成形することにあります。

鉄に比べて約3分の1の比重であるアルミニウムを採用することで、車体の総重量を軽量化し、燃費性能の向上につながっています。特に電気自動車(EV)において、この軽量化は走行距離の延長につながる重要な要素となっています。

さらに、ギガキャストの特筆すべき点は、部品点数の劇的な削減です。従来の製造方法では複数の部品を組み合わせて作られていたアンダーボディやバッテリーケースを、一体成形によって単一部品化することが可能になりました。部品点数の削減は、製造工程の簡素化につながり、結果としてコスト削減と生産効率の向上をもたらすと考えられます。

一体成形による利点はそれだけではありません。部品間の接合部が減少することで、車体全体の剛性が向上します。これにより、操縦安定性やステアリング応答性など乗り味の向上にも期待されています。
 

産業への影響

ギガキャスト技術の導入は、単に生産効率を向上させるだけでなく、産業構造そのものを変えてしまう影響力があります。

最も顕著な影響は、既存のサプライチェーンへの変化です。ギガキャストによる部品点数の大幅な削減は、これまで多くのサプライヤーに支えられてきた自動車産業の構造を根本から変える可能性があります。

また、ギガキャストではアルミニウムが主要な材料となるため、従来の鉄鋼中心の素材構成から大きく変わります。これにより、鉄鋼メーカーは新たな対応を迫られる一方、アルミニウムメーカーにとっては大きな機会です。

一方で、ギガキャスト技術の普及は新たなビジネスチャンスも生み出します。大型のダイカストマシンや関連設備の需要増加は、装置メーカーにとって新たな市場を意味します。また、ギガキャスト部品の設計や製造に関する新たな専門知識が必要になり技術支援サービスの需要も生まれるでしょう。

さらに、この技術の応用範囲は自動車産業にとどまりません。大型の一体成形技術は、建築資材や産業機械部品など、他の産業分野への応用も期待されています。
 

ギガキャストのメリット

ギガキャスト技術は、生産効率の向上から車体性能の改善まで、幅広いメリットをもたらします。また、自動車メーカーの市場競争力にも影響を与えるでしょう。

主なメリットとしては、以下のことが挙げられます。

  • 開発スピードの向上
  • 生産効率の向上
  • 車体性能の向上
  • 環境への配慮
  • 競争力の強化

ギガキャストは自動車産業に新たな可能性を開く技術であり、この革新的な技術の今後の展開が注目されています。もちろん、自動車業界だけでなく、他の産業界からも技術発展が期待されているでしょう。

ここからは、ギガキャストの主なメリットについて、詳しく解説していきます。
 

開発スピードの向上

一体成形による部品統合で必要な金型面数や組立冶具が大幅に削減され設計開発や生産準備、工程間のすり合わせなど開発工数が大幅に削減されます。仕様の変更、マイナーチェンジから車種追加まで開発期間の短期やモデルサイクルの短縮に貢献出来ます。市場投入への早さが求められるEV開発で効果を発揮します。
 

生産効率の向上

ギガキャスト技術がもたらす最大のメリットの一つが、製造プロセスの大幅な簡素化です。

従来の自動車製造では、アンダーボディなど車体の一部を構成するために数十から百個以上の部品を個別に製造し、それらを組み合わせる必要がありました。しかし、ギガキャストでは、これらの部品を一体成形することが可能です。

この劇的な部品点数の削減は、製造工程の大幅な簡素化につながり、設備投資の低減、生産時間の短縮とコスト削減が期待されます。

さらに、製造コストの削減効果も注目に値します。コスト削減は、部品点数の減少だけでなく、プレスや溶接、組み立てなどの工程が大幅に簡略化されたことによるものです。

また、工場のスペース効率向上も重要なメリットです。テスラではギガキャスト技術とモジュラー生産(アンボックスドプロセス)を導入することで、従来の生産ラインに比べて工場の面積を40%以上小さくすることができると試算しています。これは、設備投資の削減や工場の効率的な運用につながり、企業の競争力向上につながるでしょう。
 

車体性能の向上

アルミニウム合金を用いた一体成形により、車体の剛性が向上します。この剛性の向上は、車両の操縦安定性を改善し、リニアな操作感など乗り味の向上も期待出来ます。

さらに、ギガキャスト技術による車体の軽量化は、特に重いバッテリーを搭載するEV(電気自動車)にとって、操安性と電費の改善に直結します。

安全性の面でも、ギガキャスト技術で進化する可能性があります。アンダーボディにはエネルギー吸収領域と乗員を守る保護領域があります。ダイカストの特徴である優れた成形性を活かしリブ構造のデザインを工夫することで衝突安全性能を実現しています。従来の多数の部品を組み合わせる構造に比べ、一体成形による剛性向上で荷重が分散され、衝撃エネルギーを効果的に吸収、受け止めることが出来ます。

また、部品の接合箇所が大幅に減少することで、構造的な弱点も減少します。溶接部分などの接合部は、従来の車体構造において潜在的な弱点となっていましたが、ギガキャストによる一体成形はこの問題を低減します。自動車メーカー各社は、衝突性能を実現する形状の独自性を特許出願しており、今後どのように発展するかが注目されます。
 

環境への配慮

ギガキャストでは、従来の鉄鋼製の部品と比較して軽量化が期待されます。この軽量化によってEVの電費改善につながり、走行時のCO2排出量の削減につながります。

ダイカストは、急冷凝固の鋳造工法であるためプレス工法に比べ合金の不純物許容値が高く再生材料の使用比率を高くすることが出来ます。アルミニウムの再生塊は新塊に比べCO2排出量が約5%(▲95%)と低く、かつ資源循環に貢献する材料です。ギガキャスト向けの合金も再生材料ベースとなるように銅や鉄などの不純物の上限値を上げた合金が開発されています。

資源循環やCO2排出量削減の視点から今後は、車両への再生材料の使用比率の向上が求められ、将来的には義務化されると考えられます。ギガキャストはこのニーズに応える素材として環境面での商品力向上に貢献します。

さらに、製造工程の効率化による環境負荷の低減も見逃せません。ギガキャスト技術では、従来の多数の部品を一体成形することで、製造工程を簡素化できます。この工程の簡素化は、製造時のエネルギー消費量や廃棄物の削減につながり、生産過程における環境負荷を軽減します。
 

競争力の強化

ギガキャスト技術を用いることで、従来の製造方法と比較して部品点数を減少させることができます。設計開発、生産準備、部品管理コストの低減や組立ラインの簡素化が実現し、製造コストを30〜40%削減できるとの試算もあります。このコスト削減は、特に価格競争の激しい電気自動車(EV)市場において、重要な競争優位性となります。

また、ギガキャスト技術の導入は、自動車メーカーのブランド価値向上にもつながります。この最先端技術を採用することで、企業イメージを革新的で先進的なものへと変革できるからです。

特に、テスラのように新興メーカーがこの技術を先行して採用していることから、従来の自動車メーカーにとっては、技術力の高さや変革への積極性をアピールする絶好の機会となります。

さらに、ギガキャスト技術は消費者に新たな価値を提供できるでしょう。走行安定性や乗り心地の向上、安全性の改善、走行距離の延長、資源循環への貢献などは、消費者にとって直接的なメリットとなり、製品の魅力を高めることにつながります。
 

ギガキャスト導入の課題

ギガキャスト技術の導入には様々な課題が存在します。この課題を克服することが、この技術の普及と成功のキーポイントとなるでしょう。

以下は、ギガキャスト導入の主要な課題です。

  • 初期投資の高さ
  • 運搬の課題
  • サプライチェーンへの影響
  • 鋳造時の寸法精度と品質管理
  • 材料コストの増加

これらの課題を克服するためには、自動車メーカー、部品サプライヤー、設備メーカー、そして研究機関が密接に協力し、技術開発と実用化を進めていく必要があります。

ギガキャスト技術は自動車産業に大きな変革をもたらす可能性を秘めていますが、その実現には多くの障壁を乗り越えなければなりません。
 

初期投資の高さ

ギガキャスト技術の導入には、莫大な初期投資が必要です。ギガキャストに必要な設備の中核となるダイカストマシンや周辺設備の導入には、大きなコストがかかります。このような大型機械の導入は、インフラの拡充、工場のレイアウト変更や建屋の改修・建て替えなども必要となる可能性があり、さらなる追加投資を生む要因となります。

加えて、ギガキャスト用のアルミニウム溶解炉も必要不可欠です。この設備も高額であり、さらに運用には高度な技術と経験が求められます。アルミニウムの溶解と鋳造プロセスの管理は、製品の品質に直結する重要な工程であるため、設備投資だけでなく、専門的な技術開発と熟練した人材の育成にも時間とコストがかかります。

これらの初期投資の総額は、企業の規模によっては数百億円に達する可能性もあります。このような巨額の投資は、大手自動車メーカーでさえ慎重な判断を要する水準であり、中小企業にとってはほぼ手の届かない領域といえるでしょう。
 

運搬の課題

ギガキャストは、鋳造設備、金型、製品の全てが大きく重いため運搬やハンドリングの課題があります。

大型鋳造機(ギガプレス)は分解され運搬・搬入されますが最も重いパーツ(リンクハウジング)は100トン近い重量があり陸送するには特車申請(特殊車両通行許可申請)と言われる走行時の安全を担保するための調査と申請が義務づけられています。橋梁の強度計算なども必要になり陸揚げする港から工場までの距離、経路にもよりますが承認までに1年近くかかる場合もあります。

鋳造機ほどではありませんが、金型も同様に最小単位に分解しても重量は基準を超えるケースが多く運搬の度に特車申請が必要になるため港に近い立地が優位性となります。

アンダーボディなどのギガキャスト製品は、大きくスペース効率が悪いため運搬費用が課題になります。そのためテスラなどは、組立工場の中に鋳造設備を導入し輸送ロスを低減しています。また製品の重量はアンダーボディの場合50kgを超えるため人が直接取り扱うことはできません。そのため工場内の搬送や検査工程では専用の冶具やロボット、搬送設備が必要になり初期投資を押し上げることになります。

一方で、ギガキャストは、物流にも変革をもたらす可能性があります。従来の多数の小型部品を運搬する方式から、少数の大型部品を効率的に運搬する方式への転換が必要となります。これは、物流業者にとっても新たな課題であり、機会でもあります。
 

サプライチェーンへの影響

ギガキャストによる部品点数の大幅な削減は、既存の部品メーカーに大きな影響を与えます。特に、小規模な部品メーカーにとっては、事業の存続にも関わる重大な問題となる可能性があるでしょう。

また、ギガキャストではアルミニウム合金が主要な材料として使用されるため、素材産業にも大きな影響を与えます。従来の鉄鋼中心の素材構成から、アルミニウムへのシフトが進むことで、鉄鋼メーカーは新たな対応を迫られることになります。

一方で、アルミニウムメーカーにとっては大きな機会となる可能性があります。ただし、自動車メーカーが環境対応として要求する再生アルミニウムやグリーンアルミニウムの品質と量を安定的に供給できる体制を整えることが課題となるでしょう。アルミニウム素材の安定供給は、ギガキャスト技術の普及と密接に関連しており、新たなサプライチェーンの構築が必要となります。
 

鋳造時の寸法精度と品質管理

ギガキャストによる大型部品の一体成形では、鋳造時に反りや歪みが生じやすいという問題があります。従来の小型部品の鋳造とは比較にならないほど大きなスケールで発生するため、寸法精度の維持が非常に難しくなります。

特に、車体の構造部材として使用される部品では、高い精度が要求されることもあり、この課題の克服が技術者たちの大きな挑戦となっています。

さらに、ギガキャスト部品は一体成形により剛性が高く、製品寸法の矯正が出来るヵ所は限られています。従来の製造方法では、個々の部品レベルで調整や修正が可能でしたが、ギガキャストではそれが難しくなります。このため、金型側の寸法の作り込みや鋳造時の精度管理がこれまで以上に重要になっており、製造プロセス全体を通じて高度な品質管理システムの構築が不可欠となっています。

また、冷却過程も大きな課題の一つです。ダイカストは製品の部位によって凝固速度、冷却速度が違うため材料特性が異なります。特にギガキャストのように大型品では、そのバラツキが大きい傾向があります。そのため材料特性を予測し設計に反映する技術や冷却速度をコントロールする高度な金型技術が求められます。
 

材料コストの増加

ギガキャストで主に使用されるアルミニウムは、従来の鉄鋼材料と比較して高価です。アルミニウムの価格は鉄の約3倍とも言われ、この材料コストの上昇は製造コスト全体に大きな影響を与えます。今後ニーズが高まる再生材料やグリーンアルミニウムのプレミアムもコスト懸念の一つです。

さらに、ギガキャストによる鋳造では、プレス加工ほど肉厚を薄く出来ないという技術的な課題があります。軽量化と衝突安全性を両立させる設計最適化とそのデザインを実現する鋳造技術の進化が不可欠です。

一方で、アルミニウムの使用には軽量化というメリットがあります。車体重量の削減は燃費性能の向上やEVの航続距離延長につながるため、長期的には燃料コストの削減や環境負荷の低減といった利点をもたらします

ギガキャストの低コスト化、軽量化、高性能化のポテンシャルを引き出すことは、自動車産業に大きな変革をもたらす可能性があるため、各社の取り組みが注目を集めています。

日本では、以下のメーカーがギガキャスト導入に向けて動き始めています。

  • トヨタ自動車株式会社
  • 日産自動車株式会社
  • 本田技研工業株式会社

これらの国内自動車メーカーの動きは、EV市場での競争力強化と製造プロセスの革新に積極的に取り組んでいることを示しています。

今後、この技術がどのように進化し、自動車産業全体にどのような変革をもたらすのか、その動向が注目されています。
 

トヨタ自動車株式会社

トヨタ自動車株式会社は、ギガキャスト技術の導入に向けて積極的な姿勢を示しています。同社は2026年に発売予定の次世代バッテリーEV(電気自動車)にこの革新的な技術を採用する計画を進めており、自動車業界に大きな影響を与えると予想されています。

トヨタの計画では、車体の前後部のアンダーボディを一体成型することで、生産効率を大幅に向上させることを目指しています。具体的には、アンダーボディをフロント、センター、リアの3分割にするモジュール構造においてフロントとリアにギガキャストの採用を検討しているとのことです。

特筆すべきは、トヨタが独自の技術開発を進めている点です。同社は長年のエンジン製造で培った鋳造技術のノウハウを活かし、独自の解析技術を用いて鋳造品の品質向上に取り組んでいます。さらに、トヨタ生産方式(TPS)の思想を取り入れ、効率性の向上にも注力しています。

参考:日刊工業新聞「86部品33工程を1部品1工程に削減…トヨタが導入する生産技術「ギガキャスト」とは?」
 

日産自動車株式会社

日産自動車株式会社は、次世代電気自動車(EV)の生産においてギガキャスト技術を導入する方針を明らかにしました。

同社は2027年度から、一部のEVの車体リア部分でギガキャスト技術を適用する計画を発表しました。具体的には、加圧能力6000トン級の大型アルミ鋳造機を導入し、約1400ミリ×1500ミリメートルのリアフロアーを一体構造化する予定です。この技術により、従来約100点の部品で構成されていたリア部分を1部品に集約することが可能となります。

日産の試算によると、ギガキャスト技術の導入により、部品の重量を鉄と比べて約33%軽量化し、コストも約13%削減できる見込みです。これは、EVの競争力向上に大きく寄与すると期待されています。

参考:日刊工業新聞「100点⇒1部品に集約…日産が次世代EV生産に「ギガキャスト」、加圧能力6000トン設備導入」
 

本田技研工業株式会社

本田技研工業株式会社(ホンダ)は、ギガキャスト技術の導入に向けて独自のアプローチを取っています。同社は、2020年代後半に電気自動車(EV)用電池ケースの製造工程でメガキャスト技術を実用化する計画を進めており、自動車業界の中でも注目すべき戦略を展開しています。

ホンダの計画では、まず米国オハイオ州のアンナ工場に新設するEV用電池ケースの製造ラインに、6,000トンクラスの高圧ダイキャストマシン(メガキャスト)を導入します。この技術により、従来60部品以上で構成されていたバッテリーケースの部品数を、わずか5部品にまで大幅に削減することが可能となります。

ホンダのアプローチの特徴は、慎重かつ段階的な導入戦略です。トヨタ自動車や日産自動車がアンダーボディへのギガキャスト導入を積極的に進める中、ホンダはまず電池ケースの製造で技術を磨き、その後車体骨格部品への適用を検討するという段階的なアプローチを取っています。

参考:日刊自動車新聞社「国内自動車メーカー、「ギガキャスト」導入本格化」
 

ギガキャストに参入した国内自動車関連メーカー

ギガキャスト技術の導入が自動車業界で加速する中、国内の自動車部品メーカーも積極的にこの分野に参入しています。この動きは、自動車産業の構造変化に対応し、新たな成長機会を捉えようとする各社の戦略を反映しています。

以下は、ギガキャスト技術に参入を始めているメーカーです。

  • リョービ株式会社
  • 株式会社米谷製作所
  • 株式会社コイワイ
  • 株式会社ソディック
  • 株式会社アイシン

これらの企業の動きは、ギガキャスト技術が自動車産業に与える影響の大きさを示しています。従来の部品製造の枠を超えた新たな技術開発や設備投資が進められており、自動車産業のサプライチェーン全体が大きな変革期を迎えていることがうかがえるでしょう。

今後、これらの企業の取り組みが、日本の自動車産業の競争力強化にどのようにつながっていくか、注目されています。
 

リョービ株式会社

リョービ株式会社は、自動車産業の革新的な製造技術であるギガキャストに積極的に参入し、業界をリードする動きを見せています。

同社は、静岡県菊川市の菊川工場内にギガキャスト専用の新工場建屋を設立し、2025年3月からの稼働を目指しています。この取り組みは、自動車部品製造における大きな転換点となる可能性を秘めています。

新工場には、産業機械メーカーのUBEマシナリー株式会社から型締力6,500トンの大型ダイカストマシンを導入する予定です。

リョービの新工場建屋は、敷地面積3,400平方メートルという大規模なものになります。この中には、1,600平方メートルの鋳造工場と1,800平方メートルの金型工場が含まれ、ギガサイズ金型の製造や大規模な金型修正に対応できる体制を整える予定です。

参考:リョービ株式会社「大型一体成形ニーズに応える「ギガキャスト」を始動」

参考:リョービ株式会社「「ギガキャスト」向けダイカストマシンの導入モデルを決定」
 

株式会社米谷製作所

株式会社米谷製作所は、新潟県柏崎市に本社を置く自動車部品用金型メーカーで、ギガキャスト技術の普及に向けて積極的な取り組みを展開しています。同社は、自動車産業の大きな転換期を見据え、ギガキャスト技術に必要不可欠な大型金型の開発に注力しています。

米谷製作所の特筆すべき点は、共和工業株式会社(新潟県三条市)との協業体制を構築していることです。両社は2023年4月、東京で開催された金型専門展「インターモールド/金型展」において、EVの車台やバッテリーケースなどを一体成形する「メガキャスト」向け超大物金型の開発・製造に共同で取り組むことを発表しました。

この協業により、米谷製作所は入れ子部分の製造を担当し、共和工業が主型の加工を行うという役割分担で、効率的な生産体制を確立しています。

現在、米谷製作所は自動車メーカーに対して試作品の供給を開始しており、2026年頃までに量産を始める計画を立てています。同社は、足元で試作案件が動き始めていることから、2025年頃までに本格的な受注につながることを期待しています。

参考:金型新聞「米谷製作所 メガキャスト向け超大物金型に挑む【特集:自動車金型の未来】」

参考:日刊工業新聞「「ギガキャスト」25年本格導入へ、相次ぐ自動車部品メーカーの参入」
 

株式会社コイワイ

株式会社コイワイは、ギガキャスト技術の普及に向けて独自のアプローチを展開している注目の自動車部品メーカーです。同社は、3Dプリンターを活用した砂型立体造形技術を用いて、ギガキャスト用の試作鋳物技術を確立し、EV市場における新たなビジネスチャンスの創出に挑戦しています。

コイワイの特筆すべき点は、ギガキャストによる量産の前段階で必要となる砂型鋳造試作事業に着目したことです。同社は、3Dプリンターで高精度に造形した砂型を使用し、湯流れ・凝固のシミュレーションや、量産用材料の機械的特性を踏まえた試作用材料開発、大型薄肉砂型鋳物の熱処理などの技術・ノウハウを組み合わせた独自の技術を確立しました。

この技術を活用し、コイワイはEV車両向けのアルミニウム軽量車体フレームの試作を行い、国内外の自動車メーカーに向けて積極的な受注活動を開始しています。

同社は、2026年までにギガキャスト関連事業で年間売上高10億円を目指すという具体的な目標を掲げています。

参考:株式会社コイワイ「ギガキャスト用砂型試作 3Dプリンタ砂型鋳造により実現」

参考:日刊工業新聞「テスラ先行・トヨタも導入…「ギガキャスト」商機に、コイワイが砂型鋳造試作事業」
 

株式会社ソディック

株式会社ソディックは、ギガキャスト技術の普及に向けて独自のアプローチを展開している注目の企業です。同社は、日本精機株式会社と共同で、ギガキャスト向けの大型金型部品「入れ子」を金属積層造形(AM)技術で製造するプロジェクトを進めています。

同社の金属AM機「LPM450」を使用し、縦横450ミリメートル角サイズの大型入れ子を造形する技術を確立しました。この技術により、従来の製造方法では困難だった複雑な冷却構造を持つ金型の製造が可能となり、ギガキャストの品質向上と生産効率の改善を目指しています。

さらに、ソディックは造形中の歪みや割れを抑制する造形条件や、熱処理による反りを抑える加工方法の開発にも取り組んでいます。これらの技術は、ギガキャスト用金型の耐久性向上と製造コストの削減に直結する重要な要素となっています。

参考:日刊工業新聞「「ギガキャスト」向け共同開発、ソディックと日本精機が積層造形で大型金型」

参考:日刊工業新聞「「ギガキャスト」25年本格導入へ、相次ぐ自動車部品メーカーの参入」
 

株式会社アイシン

株式会社アイシンは、自動車部品メーカーとして、ギガキャスト技術の導入に積極的な姿勢を示しています。同社は2025年度までの中期経営計画において、この革新的な技術を導入することを発表し、自動車産業の変革に対応する姿勢を明確にしました。

アイシンのギガキャスト技術への取り組みは、単なる技術導入にとどまらず、同社の成長戦略の重要な一部となっています。具体的には、2025年度までに売上高を5兆円、営業利益を3000億円以上に引き上げるという目標を掲げており、ギガキャスト技術はこの目標達成の鍵となる技術の一つとして位置づけられています。

同社がギガキャスト技術に注目する背景には、電気自動車(EV)市場の急速な拡大があります。EVの車体構造は従来の内燃機関車とは大きく異なり、より軽量で高剛性な構造が求められます。ギガキャスト技術は、この要求に応える可能性を秘めており、アイシンはこの技術を活用してEV市場での競争力を強化しようとしています。

参考:日刊工業新聞「電動化を成長領域に…売上高5兆円目指すアイシンの新中計の中身」
 

ギガキャストの今後の展望

ギガキャスト技術は、自動車産業、特に電気自動車(EV)製造の未来を大きく変える可能性があります。また、この技術の普及によりEV製造のプロセスが大きく変わることも期待されています。

そして、従来の多数の部品を組み合わせる製造方法から、大型部品の一体成形へと移行することで、生産ラインの簡素化と効率化が進むでしょう。これにより、開発期間、製造時間の短縮と生産コストの削減が見込まれています。

一方で、ギガキャスト技術の普及には課題も存在します。品質管理と安全性の確保は最も重要な課題の一つです。大型の一体成形部品は、従来の多数の小型部品を組み合わせる方法と比較して、品質管理がより複雑になる可能性があります。特に、鋳造時の寸法精度の維持や、材料特性のバラツキなど、技術的な課題の克服が必要となります。

ギガキャスト技術は自動車産業に大きな変革をもたらす可能性を秘めていますが、その実現には多くの課題を克服する必要があります。今後、技術の進化と普及に伴い、これらの課題がどのように解決されていくか、業界全体で注目されています。
 

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監修者情報

監修:神 重傑
リョービ 株式会社
ダイカスト企画開発本部研究開発部 参与

経歴:
1986年リョービ(株)に入社、ダイカスト研究開発部に所属。
2015年ダイカスト研究開発部部長、2020年よりギガキャストのプロジェクトに従事。


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