車載OSとは?目指す姿と各自動車メーカーの車載OS開発状況

今後の自動車技術において、どのように車載OSが進化し、自動車産業をリードしていくのか。車載OSが思い描く先には、専用OSから汎用OSへの移行という自動車業界の最新トレンドが見え隠れします。

この記事では、車載OSの概念からその重要性、さらにはステラ・トヨタ・ホンダなど自動車メーカーによる独自の開発状況に至るまで解説します。ぜひ、最後までご一読ください。
 

車載OSとは?

車載OSとは、車両に組み込まれる電子制御ユニットであるECU(Electronic Control Unit)の制御を担うソフトウェアのことです。具体的には、以下の機能を担います。

  • エンジンやブレーキ、ステアリングなどの基本的な車両制御
  • インフォテインメントシステム(オーディオ、ナビゲーション、通信など)の制御
  • ADAS(先進運転支援システム)の制御

現状、車載OSの多くは各々のECUにのみ対応しており、複数の機器を同時に制御できません。しかし、近年では自動車の電子化が進むにつれて、SDVやコネクテッドカーなどの実現には、様々な機能を統合的に制御できる車載OSが求められています。そのため、自動車メーカーやサプライヤーは、安全性や信頼性、拡張性などを考慮した車載OSの開発に取り組む必要性がますます高まっています。
 

車載OSは2種類に大別される

車載OSの種類としては、大きく分けて以下2つのタイプがあります。

項目

内容

専用OS

自動車メーカーやサプライヤーが独自に開発したOS。車両の特性や要求に合わせてカスタマイズされたものが多い

汎用OS

スマートフォンやパソコンなどで使用されているOSをベースとしたOS。開発コストやリスクを抑えることができる

現在の車両で使用されている車載OSは、専用OSが主流です。しかし、先ほど触れたように、様々な機能を統合的に制御できる汎用OSの需要が高まっています。そのため、車載OSはますます複雑化・高度化していくことが予想されます。では、車載OSが目指すべき姿はどこにあるのでしょうか。
 

車載OSの目指す姿

車載OSの目指す姿は、「違いを吸収して最適化する翻訳機能」により、どの自動車メーカーの車両でもアプリケーションを共有・流通できることです。現在、ホンダやトヨタなどのメーカーは、専用のOSを用意して車両からデータを収集しています。こうした技術をさらに発展させると、ハードウェアの開発段階直前までのプロセスを共通化することが考えられます。

例えば、日本語を話す人と、日本語とドイツ語の両方を話せる人、そしてドイツ語を話す人との間には翻訳者のような存在があります。日本語で指示を出せば、翻訳者がそれをドイツ語に変換して伝えてくれます。ドイツ語を話す人は、何かを行った結果をドイツ語で報告しますが、ここでも翻訳者が日本語に変換するため、ドイツ語を覚える必要はありません。車載OSの目指す姿は、このような翻訳機能にフォーカスしていると言えます。それによって自動車メーカーに縛られず、多くのソフトウェアが誰にでも開発可能になり、使用できるような状況が徐々に現実味を帯びてくるでしょう。
 

車載OSが担うミドルウェアとしての役割

多くの車載OSは、主にMicro Processor向けのOS(QNXやLinux)の上に構築されます。システムやアプリの構築に使用される要素をブロックとして組み立て、分類する「ソフトウェアスタック」としては、以下の「ミドルウェア」が該当します。

  • ハードウェア(QNXやLinux)
  • ミドルウェア(車載OS)
  • アプリケーション(ユーザーに直接提供される機能)

ミドルウェアは、パソコンやスマートフォンのOSと同じように、ハードウェアとアプリの仲介役を担います。先ほど触れたように、中間地点で情報の取得や処理を行うことで翻訳機能としての役割を果たし、機器が異なっても個別に専用アプリを開発する必要がなくなります。

しかし、各自動車メーカーで共通した車載OSはまだ生まれていません。そのため、現状では各車両に搭載された電子制御部品であるECU(Electronic Control Unit)を管理するために専用の車載OSが利用されています。
 

汎用性のある車載OS開発の課題

車載OSの開発において、最も重要で困難なのは、ソフトウェアからの指示を各ハードウェアに対応させるためのハードウェアアブストラクション(Hardware Abstraction Layer、HAL)の構築です。ハードウェアアブストラクションとは、ハードウェアとソフトウェアの間に存在する抽象化レイヤーのことです。主な役割は、各ハードウェアの仕様の違いを吸収し、共通の方法で取り扱えるようにすること。つまり、異なる媒体でも同じアプリを利用できる「汎用OS」という姿の実現です。

汎用性のある車載OSでは、ハードウェアに対する正確な指示が必要です。そのため、ハードウェアアブストラクションの設計者の役割が非常に重要です。例えば、車両に搭載された1アンペアで動作するモーターに2アンペアを流すと予期せぬ問題を引き起こす可能性があります。そのため、車載OSはこの違いを吸収し、適切に信号を送るように設計されなければなりません。

一方で、ここまでお伝えしたように、「車載OSの目指す姿」としては、ハードウェアアブストラクションを作り込めると、アプリの開発者は共通した車載OSの規格に合わせるだけで済みます。そのため、将来的には特定の自動車メーカー専用のアプリを開発する必要がなくなり、誰もが使える汎用的なアプリを導入できる未来を目指していると考えられます。
 

各自動車メーカーの車載OS開発状況

各自動車メーカーは、それぞれ独自の車載OSを開発しています。以下では、代表的な3社における車載OSの開発状況や特徴について紹介します。

  • テスラの車載OS
  • トヨタの車載OS
  • ホンダの車載OS

テスラの車載OS

テスラの車載OSは「Tesla OS」と呼ばれ、テスラが自社開発したLinuxベースの車載OSです。厚生労働省によると、2020年から販売台数を急速に拡大し、主に「モデル3」「モデルY」「モデルX」「モデルS Plaid」「モデルX Plaid」などの車種に搭載されています。そして、テスラの車載OSは、以下に挙げた車両の様々な機能を統合的に制御する役割を果たしています。

  • ナビゲーション
  • メディア再生
  • 車両の設定
  • オートパイロット

テスラの車載OSは2012年に初めて導入されて以来、OTA技術を利用して継続的にアップデートされ、新しい機能や改善が追加されています。特に、完全自動運転を指すFSD(Full Self-Driving)は、2020年10月にベータ版がリリースされ、2022年10月時点で約16万人のテスターを集めるほどの人気ぶり。さらに、オートパイロット(Auto Pilot)は標準装備されており、有料オプションとしてはEnhanced Autopilot(EAP)など、Linuxの拡張性を活用したカスタマイズ性に富んだ機能が多くのユーザーを魅了しています。

参考:
https://www.tesla.com/ja_jp/support/software-v9https://jidounten-lab.com/u_40792
 

トヨタの車載OS

トヨタの車載OSは、「アリーン(Arene)」と呼ばれ、2025年を目標に商業化されることを目指して開発が進められています。2018年には、自動運転技術に特化した子会社TRI-AD(現在はウーブン・バイ・トヨタ社として知られています)を設立し、自動運転システムの開発プラットフォーム「Arene OS」を開発しました。AreneはLinuxをベースにしており、以下の特徴を持つ車載OSとなっています。

  • 次世代音声認識
  • リアルタイムの交通情報の活用
  • 車両データ(プローブデータ)の活用

当初の計画では、トヨタは2023年度に向けて、複数の電子制御ユニット(ECU)を一つに統合し、これまで個別に機能していた主要なソフトウェアを一箇所にまとめ、電子部品の新しいバージョンを市場に投入することを目指していました。そのため、Arene OSには自動運転用のソフトウェアを統合的・効率的に開発するための環境「Apex.OS」が組み込まれていました。ソフトウェアの開発期間の短縮を目指しているものだと考えられるでしょう。

参考:https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2021FY/050113.pdf
 

ホンダの車載OS

ホンダの車載OSは、2025年に北米市場に投入する中大型EVから採用されるLinuxベースの「ビークルOS」です。ビークルOSでは、ECUに対応したOSを、専用のソフトウェアフレームワークを使って一元的に整理するシステムを採用しています。このフレームワークには、クラウドを通じてサーバー同士がスムーズに連携できるAPIを備えており、Android Automotiveを利用して以下の機能を基本にアプリやサービスを自由に作成できる環境を整えることを目指しています。

  • AIやビッグデータの活用
  • 周辺情報や経路
  • 高速道路のみで使用可能なハンズオフ機能

人物などを認識するために、米Qualcomm Technologiesの「Snapdragon Ride SoC」の深層学習技術であるVision Transformerを利用しています。この最新の深層学習モデルはCNN(Convolution Neural Network)に基づいており、複雑な人物の識別、夜間の前方車両の状況を正確に把握することが期待されるものです。

ホンダは、2040年までに電気自動車(EV)と燃料電池自動車(FCEV)の販売を全体の100%にするという計画を公表しており、車載OSなどの開発に必要な人材を集めています。そのため、今後の成長が期待できると言えます。

参考:https://global.honda/jp/stories/027/#:~:text=モビリティ業界に衝撃が,100%25にすると宣言した。
   https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/08544/
 

まとめ

車載OSは、車両に組み込まれる電子制御ユニットであるECU(Electronic Control Unit)の制御を担うソフトウェアです。現在、車載OSは専用OSと汎用OSの2つのタイプに大別されます。

専用OSは自動車メーカーやサプライヤーが独自に開発し、車両の特性や要求に合わせてカスタマイズされます。一方、汎用OSはスマートフォンやパソコンなどで使用されているOSをベースにしたもので、開発コストやリスクを抑えることができるものです。

車載OSの目指す姿は、「違いを吸収して最適化する翻訳機能」により、どの自動車メーカーの車両でもアプリケーションを共有・流通できることです。現在は、各自動車メーカーが独自の車載OSを開発していますが、将来的には汎用的な車載OSが普及することも期待されています。

オートモーティブワールドは、自動車産業における最新の技術とトレンドを紹介する大規模な展示会です。展示会では、カーエレクトロニクス技術、EV・HV・FCV技術、軽量化技術、コネクティッド・カー関連技術、自動車部品・加工技術、自動運転技術、ソフトウェアソリューション、MaaSなど、様々な分野の技術が紹介されます。この機会を活用して、自動車技術の最先端を体験し、業界のリーダーとの交流を深めてください。
 


監修者情報

監修:石川誠司

経歴:
1989年~2004年 自動車部品メーカーにてGPS 受信機とジャイロセンサーの開発を担当。2004年~2017年 外資系半導体メーカー 技術サポート部 マネージャー。2017年~現在 イータス株式会社 技術サポートを担当、2022年からはSoftware Defined Vehicle 関連製品とサービスのソリューション・セールスを担当。