SDVの現状とビジネス化の展望は?変わりつつある車両メーカーとサプライヤーの役割分担

自動車業界は、SDV(Software Defined Vehicle)の登場により大きな転換期を迎えています。そのため、OTA(Over The Air)技術を活用したソフトウェアの更新やカスタマイズサービスの提供、さらには車両データの活用による新しいアプリケーション開発など、新たなビジネスモデルの変化や収益源の創出に注目が集まっているのが現状です。

この記事では、SDVの現状とビジネス化の展望、そして自動車産業の未来を支える新たなビジネスチャンスについて解説します。また、車両メーカーとサプライヤー間の役割分担の変化にも触れるため、ぜひ最後までご一読ください。
 

SDVの現状とビジネス化の展望

SDVは、自動車業界における最新のイノベーションの1つです。伝統的にハードウェア中心だった自動車の価値は、近年、ソフトウェア化によって大きく変貌したことで、どうやってビジネス化するかについて多くの方が関心を持っています。その証拠に、BCGと世界経済フォーラム(WEF)の共同レポートによると、2030年までにSDVは自動車業界に6,500億ドル以上の価値をもたらすとの予想があるほどです。そのため、ソフトウェアが進化するほど車両の機能も拡張され、新たなビジネス機会まで生まれています。

過去には、車両が工場を出た後はソフトウェアの更新がほとんど行われず、リコールなどの例外的な状況を除いては、ディーラーがコンピュータ診断や書き換えを行う程度でした。しかし、現在ではSDVやコネクテッドカーをはじめとする、多くのECU(Electronic Control Unit)やアプリを備えた車両が増えてきています。また、ECUを効率的に更新するためには、各自動車メーカーが競って車載OSの開発に取り組んでいることも見逃せません。さらには、車両に搭載されたアプリも、無線通信を介してOTA(Over The Air)技術を利用してソフトウェアやファームウェアのアップデートが頻繁に行われる時代となっています。

こうした現状を踏まえると、車両に搭載されるソフトウェアの提供や販売によって、新たな収益源を創出できるその先も見えてきます。例えば、Tesla OSのように、自動運転機能やADAS機能、コネクティビティ機能などのソフトウェアを、有償で提供するビジネスモデルは誰もが期待するところでしょう。SDVのビジネス化はまだはじまったばかりですが、産業横断の協業が新しいチャンスを創出する鍵となり、ビジネスモデルも大きく変化していくことが見込まれています。

車両メーカーとサプライヤーの役割分担、責任分担が変わる

SDVの登場と普及に伴い、車両メーカーとサプライヤーの間の役割分担や責任分担も変化しつつあると考えられます。なぜなら、SDVは社会インフラとの連携が進むことで、車両の役割や価値も拡大していく見込みがあるためです。そのため、新しいビジネスモデルの開発やシステムの統合において、これまで以上にメーカーとサプライヤーの協力が必要とされます。

例えば、SDVではソフトウェアのアップデートやデータの収集・分析・活用によって、車両の性能向上や機能追加が可能です。つまり、お気に入りの車両がアップデートを受けられる限りは長く乗り続けられ、総じて車両のライフサイクルも長くなります。そうすると、車両メーカー側が機能安全の責任を負担していますが、複雑化したソフトウェアが車両の安全性にも直接影響を与えるため、開発するサプライヤーも責任を負うこともあるでしょう。

また、クラウドサービス等での開発中・量産後の車両データの提供や、データを解析した結果の提供といった新しいビジネスの創出が起きたらどうでしょうか。車両メーカーとサプライヤーが、車両のデータや技術を共有し、協力して取り組むことが求められるはずです。加えて、SDVやコネクテッドカーにおいては、搭載されたソフトウェアの更新やセキュリティ対策が求められます。この動きを受けて、ソフトウェアやデータの領域における専門知識を保有した人材の参入もあり得えます。

このように、SDVの普及においては、車両メーカーとサプライヤーの役割分担や責任分担を変化させ、新しい視点を持つ参画者の増加や、これまでと異なるビジネス創出の機会をもたらすと考えられます。そのため、車両メーカーやサプライヤーなどによる伴走型による動きの強まりが、SDVの普及と自動車産業の新たな成長を支えることになる見込みです。
 

SDVを活用する新しいビジネス

ここまで触れたように、SDVの領域では、現状とビジネス化の展望や車両メーカーとサプライヤー等の役割分担によってビジネスチャンスも広がっています。OTA技術による車両ソフトウェアの頻繁な更新を可能にし、最新の機能やサービスを車にすばやく提供できることで、ドライバーや乗客に新しい体験を提供できるためです。そして、アップデートは車両の安全性や性能の向上、新たな機能の追加など、車両の価値を高めるものとなります。

例えば、SDVの車両から交通状況、環境条件、車両の性能などを収集してビッグデータを利活用する場合を考えてみましょう。雨の強さに応じて動きも変えている車のワイパーの動きをデータで集めたら、降っている雨の量をリアルタイムで把握できるかもしれません。また、データから車両で問題が起きそうな兆候を早期に察知できれば、異常へすぐに対応できるようになるでしょう。

つまり、SDVの発展は自動車産業だけでなく、クラウドを含む新しい社会全体のインフラとサービスに新たな風を吹き込む可能性を秘めているものだということです。今後は、車両メーカーとサプライヤーが共同で、クラウドサービス等での開発中・量産後の車両データや解析結果の提供を行うことによる、新たなビジネスの創出が期待できるでしょう。
 

まとめ

SDVの状況とビジネス化の展望を考慮すると、自動車業界は大きな転換期にあると言えます。OTA技術を活用したソフトウェアの更新やカスタマイズサービスの提供、車両データの活用による新しいアプリケーション開発など、新たなビジネスモデルの変化や収益源の創出には、今後も注目が集まります。

また、SDVの普及に伴い、車両メーカーとサプライヤーの役割分担や責任分担も変化しつつあるものです。しかし、本記事で取り上げたビジネスはまだ具体的な形が見えていないものも多く、技術の進化や情勢の変化によってまた違う動きを迎える可能性もあります。そのため、手を挙げた企業が新たなチャンスを掴むことも想定されるでしょう。


オートモーティブワールドでは、こうした自動車産業における最新の技術とトレンドを紹介する大規模な展示会を開催しています。この先の展望を見据えた車両メーカーとサプライヤーが工夫を凝らした様々な分野の技術に触れられるため、ぜひ一度は足を運んでみてください。
 


監修者情報

監修:石川誠司
イータス株式会社
DEVソリューション・フィールド ソリューション・セールス
部長

経歴:
1989年~2004年 自動車部品メーカーにてGPS 受信機とジャイロセンサーの開発を担当。2004年~2017年 外資系半導体メーカー 技術サポート部 マネージャー。2017年~現在 イータス株式会社 技術サポートを担当、2022年からはSoftware Defined Vehicle 関連製品とサービスのソリューション・セールスを担当。

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